地域の不変性と可変性を
写真に収めて、その魅力や
美しさを伝えていきたい。
写真家澤 戢三SAWA SHUZO
1942年滋賀県生まれ。浪速短期大学(現:大阪芸術大学短期大学部)在学時に、写真家の入江泰吉先生の授業を履修したことがきっかけで写真を始める。現在はフリーカメラマンとして活躍。日本遺産「もう、すべらせない‼~龍田古道の心臓部「亀の瀬」を越えてゆけ~」のプロモーション写真を多数撮影し、提供している。
写真はいつから、
どういうきっかけで始められましたか。
写真家の入江泰吉先生の授業を浪速短期大学で履修したことがきっかけで、写真の魅力から離れられなくなりました。入江先生の写真で一番心に刺さったのは「お水取り」のシリーズです。写真のリアリティと“画の強さ”はもちろんのこと、お水取りの現場や行を支える人のありようなどの一連の流れを表現しており、今では立入が難しいポジションから撮影していることからも関係者との信頼関係が窺え、非常に感銘を受けました。
本格的に写真にのめり込み始めたのは28歳頃、三郷町に居を移してからです。長らく家電メーカーでデザインを担当していたのですが、デザインは、常に市場が求めるものを提案し続けるという「現状を変えていく作業」です。一方で私にとっての写真は、長く続く伝統や自然、歴史の一瞬を切り取る作業です。平日はデザインに打ち込み、休日は写真に打ち込むことで、対極にある「表現」の手法のバランスを取っていたように思います。
大和路の四季折々の風景やひとの営みを多く撮影していらっしゃいます。
大和路の魅力、また、大和路を写真に収めることの魅力とは
澤さんにとってどういうところにありますか。
長い時間や社会環境の変化を受けて、消えていく可能性があったものたちが奈良には多く残っています。お水取りのように、1400年以上一度も途絶えたことなく、作法が変わっていないものもあります。
産業デザインという「生活に合わせて変わる良さ」に日々向き合う中で、奈良県内に溢れる歴史文化や儀礼などに「はかなさの美」を実感しました。地域の「変わらない良さ」と、そこに暮らす人々とともに「変わっていく良さ」の両方を写真に収め続けたいと思ったのです。
同じ場所に何度も足を運ぶことで、季節ごと、時間や天気ごとの表情の違いに気付き、よりよい撮り方のアイデアが浮かんできます。日常の「ひとかけら」をよりメッセージ性のある形で切り取るために、足元のフィールドである奈良県内を何度も撮り続けることを大切にしています。
御座峯からの眺望や龍田大社の
祭礼をはじめ、
日本遺産に関わる多くの
写真を手掛けるようになったきっかけと、
これまでのお取組みについて
教えてください。
地域の人々で結成した「風の郷 龍田古道プロジェクト」の一員として活動しており、三郷町長からの依頼で、日本遺産「龍田古道・亀の瀬」の公式フォトグラファーとして任を頂きました。三郷町に居を構えてから50年目の節目の年だったので、これもご縁だなと思いました。
このミッションをきっかけに、「龍田古道・亀の瀬」を撮るようになりました。歴史を証明する著名な建造物や“それだけで絵になる”石畳の古道風景がないので、その魅力を表現することは簡単じゃないぞ、と思った記憶があります。
最も頻繁に足を運んだのは龍田大社です。四季の情景の変化、祭礼の風景を撮りました。風鎮祭の時に鳥居越しの花火を撮った写真は、思い通りに撮れた一枚です。王寺町の明神山から地域の全体像を撮った写真は、古地図の鳥観図を参考にして昔に生きた方々が目にした風景イメージのように撮影できる場所を探しました。
不変性を伝えたいときは現代の人物を対象から外したり、逆に日常の営みの中に歴史が継承されていることを伝えたいときには人々の様子を入れたりなど、写真を通じて自分なりのメッセージを伝えられるように工夫しています。
今後の活動の目標について教えてください。
また、来られた方に、
「ここからこの景色を撮ってほしいな」と
思うポイントはありますか。
写真には「記録性」と「芸術性」の両面があります。公式フォトグラファーのミッションとしては多くの方々に興味を持っていただけるように、色々な角度と視点でできるだけ多くの写真素材を記録することが必要だと考えています。そこに自分なりのメッセージや個性を表現するために、今後も沢山考えて、足を使っていきますよ。
皆さんにも、実際に現地に訪れて撮影するタイミングや構図を考え、自分なりのベストショットを狙ってほしいですね。なかでも、まず亀の瀬のトンネルは是非撮って頂きたい。煉瓦の古いトンネルという「変わらないところ」と、今の我々の生活を支える治水工事トンネルの「変わっていくところ」の両方を撮ってほしいです。その時は、魚眼レンズを持ってくると撮れる写真の幅が広がると思います。
古道や龍田大社には季節ごとの表情がありますから、ご近所の方には季節ごとに訪れてみてほしいですね。
※インタビューは2023年3月時点の内容です。
※インタビューは2023年3月時点の内容です。