もう、すべらせない!!龍田古道の心臓部「亀の瀬」を越えてゆけ ロゴマーク

花田 欣也

全国でも類を見ない
貴重なトンネルに、
探究心が刺激される。

総務省 地域力創造アドバイザー
トンネルツーリズムプランナー
花田 欣也HANADA KINYA

1961年東京生まれ。大手旅行代理店での勤務経験を生かし、地域観光アドバイザーとして自治体などと連携。一方で全国に残る産業遺産“トンネル”を歩き、全国規模で例のない「トンネルツアー」の講師を務める。各種メディアへの出演や書籍執筆を通して、土木産業遺産の魅力を発信している。

花田さんがトンネルに
はまったきっかけと、
その魅力についてお聞かせください。

子供の頃から鉄道が好きでした。ローカル線のトンネルの中で、走行中の列車の窓を少しだけ開けて冷涼な空気を体に感じていると、どこか異世界に連れてってくれるんじゃないか、と想起してわくわくしました。
30歳を過ぎた頃から、本格的にトンネル歩きを始めました。最初は駅から歩いていける旧道の峠道に残る古いトンネルから始まり、今では全国の通れる鉄道廃線トンネル110本をガイド本としてまとめるまでにのめり込んでしまいました。

花田さんがトンネルにはまったきっかけと、その魅力についてお聞かせください。

トンネルマニアの花田さん
お気に入りの
トンネルについて
教えてください。

■碓氷峠の新旧トンネル群(群馬県/長野県)

明治26年に、信越本線の横川~軽井沢間に開通した「アプト式軌道」のトンネル群と、高度成長期の昭和38年に付け替えられた新線トンネル群の合計39本を、安中市観光機構のイベント「廃線ウォーク」開催時に歩くことができます。
トンネルや橋梁は国の重要文化財にも指定され、煉瓦や石、コンクリートを使用したトンネルの面構えの多様さはもちろん、1年9ヵ月で高低差約550m(斜度66.7%)という国鉄史上最大の難所に鉄道を開通させた大規模工事の凄まじさには、語るに尽きないストーリーがあります。明治の旧線トンネルの煤煙を逃がす横坑や、地質の複雑な地山を支えるためのポータル(入口)の壮大な煉瓦の翼壁(ウイング)など、厳しい自然に屈しない人々の知恵と工夫の痕跡が随所に見られ、まさに「生きたトンネル博物館」です。

旧線第6トンネル遊歩道「アプトの道」として日中公開)旧線第6トンネル
(遊歩道「アプトの道」として日中公開)

■旧北陸線トンネル群(滋賀県/福井県)

滋賀県の木ノ本から福井県の今庄(湯尾)まで、明治14年から29年にかけて造られたトンネルのうち計13本が、現在も当時の姿で地域の公道などとして活用されています。
明治17年当時、日本最長だった柳ケ瀬トンネル(1,352m)は、技術の発展途上だった日本人技術者だけで4年がかりで完成にこぎつけた難工事でした。敦賀市に残る小刀根トンネル(明治14年)は、長さ56mと短いものですが、鉄道トンネルとしてその姿が完全に残っている日本最古のものです。140年前の蒸気機関車のススが側壁の煉瓦に黒ずんでこびりついていて、その迫力が伝わってくるようです。
敦賀から今庄にかけては公道上にトンネルが連続し、トンネルの向こうに次の、また次のトンネルが見える、というなかなか珍しい景色を見ることができます。

樫曲トンネル画像協力:敦賀市樫曲トンネル画像協力:敦賀市

亀の瀬トンネルを実際にご覧になってみて、
どんなところに魅力を感じましたか。
他の地域のトンネルとの違いなどについて
教えてください。

昭和6年に発生した地すべりによって圧壊されていたはずの煉瓦トンネルが、70年以上経った後の対策工事で偶然見つかり、丁寧に美しく積層された煉瓦のアーチを目の当たりにできることは何と貴重なことだろうか、と思います。
私が注目するのは2点です。
1点目は、発掘され公開されている亀の瀬隧道の見事に積層された往時の煉瓦と、漆喰で作られた目地の丁寧な造作、その先に塞がる瓦礫の山です。崩壊したトンネル内は危険が多いため、このような光景を見ることはまずできません。幹線の鉄道トンネルの遺構においては全国でもここだけではないでしょうか。堅牢な煉瓦で組まれたトンネルをも圧壊してしまう自然の脅威を雄弁に示すものであると思います。

亀の瀬トンネルを実際にご覧になってみて、どんなところに魅力を感じましたか。他の地域のトンネルとの違いなどについて教えてください。

2点目は、まさに現在も稼働中の排水トンネルのリアリティと狭さ、暗さです。
入ってしばらく歩くと途中からはさらに狭くなり、這うように進まなくてはなりません。通路脇の謎の木箱の役割、この暗闇がどこまで続くんだろうという先の見えなさ、その中で現在も進んでいる対策工事への想像など、普段入れない異空間でわくわくした探究心が刺激されます。この「圧のある地山の闇」だけで私は“ご飯3杯はいける”のですが、一方でトンネル内の雰囲気を損ねない程度のLEDライトアップが施されていることも、異空間を演出する素敵な試みと思います。

亀の瀬トンネルを実際にご覧になってみて、どんなところに魅力を感じましたか。他の地域のトンネルとの違いなどについて教えてください。

このトンネルは、日本遺産「龍田古道・亀の瀬」のほんの一部です。
トンネルを見に来られた方に、周辺地域も含めて
どんな風に楽しんで貰えたらよいと思いますか。

ここには隧道や古道など、時代をまたがって多くの遺構があります。「説明がないとわかりにくい」という資源の特徴は、デメリットでもありますが、説明を要することで「見ただけでは終わらずに本質的な価値に近づける」ということでもあります。ビジュアルに訴えかけられる資料室を訪れたり、地域ガイドさんのお話を聞いたりすることで、価値をより実感でき感動を得ることができると思います。歴史文化に興味がある大人だけでなく、地域の子どもたちが家族で参加しやすい体験イベントが定期に開催され、都度、ガイドさんに活躍頂くことができるなら、ガイドスキルの向上も期待できるでしょう。
なにより、龍田古道・亀の瀬は大阪をはじめとする人口集積地から訪れやすいことが利点です。1回で全てを見て満足してもらう観光地を目指すのではなく、まるで散歩するように季節を変えて何度か足を運んで楽しんでほしいですね。

※インタビューは2023年3月時点の内容です。

このトンネルは、日本遺産「龍田古道・亀の瀬」のほんの一部です。トンネルを見に来られた方に、周辺地域も含めてどんな風に楽しんで貰えたらよいと思いますか。

※インタビューは2023年3月時点の内容です。

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