日本遺産を通して
地域の価値を伝えていくことが、
地域の未来につながる。
株式会社JTB総合研究所 執行役員
日本遺産「龍田古道・亀の瀬」
地域活性化計画推進アドバイザー河野 まゆ子KONO MAYUKO
東京大学文学部美術史学専攻卒。地域密着型観光コンサルタントとして、地域資源を活用した観光振興に係る戦略づくり、コンテンツ創出、市場とのコミュニケーションまで一貫して支援する。国土交通省・インフラツーリズム有識者懇談会委員(2018年度~)、国土交通省・手づくり郷土賞選定委員会委員(2018年度~)等、観光に係る公職を歴任。
全国の様々な歴史・文化観光地を
見てきていると思いますが、
この「龍田古道・亀の瀬」ならではの面白さとはなんですか。
日本遺産は、有形・無形の文化財を混ぜてストーリーを作るもので、指定文化財ではないものも含みます。これによって、地域の特性を、地理・地学、歴史、文学・芸術、産業など、様々な角度から理解できることが特徴です。「龍田古道・亀の瀬」は、古墳時代から続く歴史がある地域で、特に奈良に都があった時代に大きな発展を遂げ、皆さんもよく知る和歌に詠まれる「龍田山」「龍田川」がある場所なので、特に奈良時代の歴史・文化的背景に親しみを感じるところでしょう。
しかし、その裏側を更に掘っていくと、災害大国である日本が、地すべりの危険と隣り合わせのなかで発展させてきた道であることがわかります。未来に向けて、今でも連綿と災害対策が進められています。各時代の土木技術が積み上げられ、「現在進行形」で進化している道であることが、大きな特徴であり、唯一無二の面白さだと言えるでしょう。
国指定の文化財建築物や絶景が
あるわけではなく、
埋蔵文化財など、
目で見てわかりにくい遺産と言えます。
どのように楽しめばよいのでしょうか。
例えば、世界遺産の「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」では、価値の核である沖ノ島には上陸することができません。その代わり、ガイダンス施設で学芸員の解説が聞けたり、当時と同じように沖ノ島を遠くに眺めて「遥拝(沖ノ島の方向に向かって拝むこと)」したりできます。観光中は、「ここに行ったぞ」という記録写真を撮ることも楽しみのひとつですが、まち歩きガイドや案内人の説明を聞き、歴史上の人々と同じ場所に身を置くことで、当時の人々の暮らしや生活環境を想像することもそこでしかできない体験です。万葉の時代の人々が、親しい人のことを想いながら、別れの寂しさに耐え、または再会の喜びで足取り軽く歩いた道を歩いてみる。奈良と大阪をつないでいた明治期のトンネルに潜り、レンガの天井に付いた煤を眺め、日本の近代化と高度成長の“馬力”に想いを馳せてみる。そんな体験を通じて、写真には残らない「グッとくる肌感覚」を感じられるのが歴史の旅の醍醐味ではないでしょうか。
「龍田古道・亀の瀬」が日本遺産に
なったことによって、
地域全体の活性化に向けて、
どんなことが期待できますか。
また、地域はどんなことをしていく
べきでしょうか。
日本遺産に関わる取り組みのゴールは、単に観光誘客だけではありません。日本遺産をきっかけとして来訪する人のために飲食店やお土産が開発されたり、学校教育によって土木への関心が高まり技術者を志す人が増えたり、この遺産のファンによる維持保存活動を通じて地域住民のコミュニティが活性化されたりなど、さまざまな効果が期待されます。まずは、地域の住民の方々が、「自分たちは歴史を彩ったこんな面白い場所に住んでいたんだ」ということを再認識し、関連する場所を訪れて欲しいと思います。そして、ご自身の視点で見つけた面白さを、自分の言葉で、知り合いや来訪者の誰かに伝えて欲しいですね。遺産のことを好きな人から語られる言葉は、解説文を読んだだけでは得られない、リアルな記憶として周りの人につながっていきます。また、さまざまな生業に従事する方々が、この日本遺産と連動して、新しいビジネスや商品を生み出したり、その価値を守ったり、伝えたりしていく人の輪が広がっていくとよいなと思います。
※インタビューは2023年3月時点の内容です。
※インタビューは2023年3月時点の内容です。