地域の歴史や景観と
産業を結びつけることで、
独自の商品や体験を提供できる。
カタシモワイナリー 4代目社長高井 利洋TAKAI TOSHIHIRO
1951年大阪市柏原市生まれ。近畿大学理工学部卒業後、約2年間の会社員生活を経て、25歳でカタシモワイナリーに就職。1996年に4代目社長に就任。大阪ワイナリー協会や関西ワイナリー協会を設立して初代会長を務め、ブドウ畑の保全活動などにも取り組んでいる。
柏原市は「ぶどう」と「ワイン」を
プロモーションしていますが、
この土地で栽培するぶどうと、
それを使って作るワインの特徴を
教えてください。
この地域のワインの特徴として、赤ワイン・白ワイン・スパークリングにしてもここにしかないということに尽きます。西日本で最も古くからワイン製造が行われており、山梨の甲州ワインに使用されている甲州ブドウの原種とも言われている紫ブドウの品種が今も栽培されています。元々、シルクロードから伝わったブドウの原形をとどめたワインというのは、この地域にしかないオリジナリティーとなっています。また、デラウェアやベリーAぶどうを使ったワインも評価されて、G20大阪サミットでも選ばれ、今回GIの認定を受けることができました。
ワインをはじめとする地域の産業が、
日本遺産の認定をきっかけとして
より元気になっていくためには、
どのようなことが大切だと思いますか。
地元の歴史的な景観やストーリーは、産業にとっても宝物。歴史と産業を結び付けることで、その地域にしかない商品が生まれます。ストーリーは文字だけでなく、目で見ることでより理解が深まります。地場産業などの作業風景の動画の作成や発信などを通じて、地域内外の人の興味関心を高めることもできるでしょう。ワインであれば、土をつくり、葡萄を育て、収獲し、ワイン製造に至る工程などをまとめていくことで、商品が作られるまでに関わっている多くの人の息吹が伝わり、商品に対する理解や愛着が深まるのではないでしょうか。
日本遺産協議会の体制には、行政だけでなく住民や事業者でやる気のある人材をどんどん取り入れて欲しいです。地元でイベントやマルシェなどを行ってくれる住民や団体など、日本遺産を一緒に盛り上げていく仲間の輪を広げていけるとよいと思います。広い地域全体を会場にするような規模の大きなイベントを習慣化できると、利益が広く行き渡るので事業としての効果が大きくなるのではないでしょうか。
少人数で参加する地元ならではの体験ツアーで地域を深くじっくりと知る機会を増やしていけるといいですね。教育的な見学だけでなく、体験やランチなどのコンテンツの提供を通じて地元が潤う仕組みを作っていくことで、関わる人が増えていくでしょう。
地域のストーリーを伝える景観の維持
保全や今後のさらなる改善に向けて、
どのようなことが取組のポイントに
なると思いますか。
田園風景などの、地域の営みの中で紡がれてきた景観を保存していくことが重要です。ヨーロッパでは景観の価値と重要性を強く認識しているため、景観保全に多くの費用をかけています。日本遺産に関わる取組は、行政や関係する事業者だけで行うものではありません。ブドウやコスモスを植えるなど、ひとりひとりが小さく関われることを通じて、地域の景観が面的に良くなっていくことを実感できるような取組も重要でしょう。
また、現在の世界的潮流の中では、SDGsの17の目標を意識した取組の推進が重視されています。かつて、大和川は全国でもワースト1の水質の悪い川でしたが、近年はかなり水環境が改善されました。大和川はこの日本遺産のストーリーのひとつの核であるし、クリーンキャンペーンなどを通じた水質改善の取組は、まさにサスティナブル(持続可能性)を目指す地域活動のひとつと言え、日本遺産とSDGsを関連づけるような河川アクティビティの開発も面白いのではないでしょうか。
ワインで地域を盛り上げていくための
今後の意気込みをお聞かせください。
大阪ワイナリー協会の取組として、大阪ワインが「GI」の認定を受けたことを通じて全国的にも国際的にも知名度を上げていこうとしています。活動が拡大していく中で、日本遺産のストーリーにあるような歴史背景を活用していきたいです。これからの日本遺産の事業の広がりを見ながら、連携できる方策を一緒に考えていきたいですね。
※インタビューは2023年3月時点の内容です。
※インタビューは2023年3月時点の内容です。